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捲る

Nov 18

2008

空白を前にすると、

筆なり、指先なりが空中に無意味な線を引き始めます。

なかなか着地点が見つからず、空白に怖気づく日々が続いています。



公演中止からひと月。



公演に向けては、僕はえらく禁欲的になります。そうして追い込みをかけて声にならない悲鳴やしぼり汁をなにかを、動力にして、人力飛行機に空想を与えようとするのですが……



飛び立つことなく、鹿児島の宇宙センターのロケットのように、その場に居座り始めました。



これがなんと目障りなことか。

最近の住宅はどうにかして支柱となる大黒柱を排除して、広々とした空間をいうのを手にいれようとしているらしいですが。



この空間のど真ん中に、すべてが凍結したそれが、いつまでも視界の邪魔をします。



いったいそのオブジェに向かって僕はどういった態度をとればいいのか、どうすればそれは赦されるのか、さまざまな角度から確かめたのですが……



いくつもある防衛機制をそれぞれ試してみたのですが、気休め程度にしかなりませんでした。



巨大な魚の目が腹にできたような、奇妙さです。





だからもうそれは、そういった身体であるのだと、新しく手に入れた身体に慣れていくしかないのかもしれません。









空白を前に、絞りつくされた僕の汁はやすやすと底をついていました。

このひと月、まずは食事をとることにしました。

それにしてもこの魚の目の身体は、以前とは違い、偏食になっていました。

もともとその傾向がないわけではありませんでしたが、より顕著なものになっています。



一度崖から落ちたならば、その勢いとエネルギーとは、地球上の「法則」という、逆らいようのないものに、これでもかというほど従順です。



数々のものが、まるで追憶のように僕の背後から彼方へと流れて、見えなくなっていきました。



このエネルギーというのは、なかなか、思っていたよりも、実感の方が、鈍く、持続的で、人体に良くない効果を発揮する湿布のように、緩慢な毒を流し込んできます。









……いや、これは嘘です。そんな痛みがあるのならば、空白に対して、それは僕の武器になるからです。でも、そうはなっていない。



食事をとっているとうい素振りだけで、実はノドも通らない食欲不振と、単純に食に対する恐怖で、空白をノートの中に挟みこんでいました。





実に何もしない「享楽」をいただこうとしました。



そして昨日今日で、その享楽にもまた焦りを感じ始めて、こうして、またここにかえってきたのであります。





何と単純で、何と憶病なんだと自分でも思います。

そしてそんなもんだから、何が享楽かと思われるほど、何も味わってはいない。無感動無頓着、無着色無添加無問題あれよあれよ。





空白と文字とが、濁り湯の入った袋につかりたがっています。

彼らは僕の外部からやってきて、僕の内部に一時的に住み着いて、そしてすぐまたでていってしまう。

こいつは、どうやってもしかたのない、とどめる手段もあらゆる策もありはしない。どんなに目の細かい網ですら、まるでお構いなしの、ウィルスや、さらには分子原子よりも小さい、存在を疑われるそのモヤは。





カビでもいいから、僕の心臓に張り付いてくれたならば、ようやく僕は、お粗末ながらも人と同じような鼓動を手に入れられる。



おこがましいだろう。

それでも、これが事実だといってしまえば、それ以上のことは存在しなくなる。



これも一つの言葉の使い道。



ああ、これだけのとめどのない空白に対して、僕個人という人間はどれほどの所有と影響とがあるのだろうか。



きっと、巨大な図書館の中の一冊。それも一ページにも満たないだろう。



そこには一行こう書いてあるのだ。

「平木大士 :開きたいしでもある。」



どうだ。

これでどうだである。



ようやくすこし、崖の勢いが弱まった。

彼方にいる人々は今では胡坐をかいて、神々しく金色の輝きをはなつ曼荼羅となっている。



ああ、あの曼荼羅の一部に…と手を伸ばしても、神々しい金は僕のカビの心臓を嫌うのです。





ますます手が止まらない。



これでも僕は大空の青を疑ったりはしていないのですよ。

なにせ、こんなにも単純でわかりやすく、恥ずかしい人間はゴマンと世の中におるのだから。そんななかの、朴とした一人なのだから。



仏様、神様、どうか、この一枚のハンカチで、鼻を拭いてくださいまし。

僕はぜひともあなた方の鼻水まみれになりたい。

そこは僕にとっては清水の湧く泉である。沐浴を許してもらえるのであれば、僕は裸にでもなって、今か今かと姦淫のその時を安らかに待つ。

あなたが男であろうが女であろうが、この泉の前では、木立によりそう柔らかな草である。





こうした色が、僕を食べに来る。

僕のこらえ性のなさと、怠惰が、このあたりで飽きを催した。

これだから、僕はいつまでも、コンパスの先にくくりつけられ、ぐるぐると同心円上を労役のように歩き続けるのだ。



物語は、それでは始まりもしないし、終わりもしない。

世は展開というものを求めている。



ああ、このコンパス!なんてこいつは、自由で便利な機械なんだ。人生の指南役、しつけ役、最高のオートメーションの能力を発揮する。

こいつを手放すことの無謀さが、誰しもわかっているのだ…

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