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アイスクリームのこと

Jan 13

2011

 あるところに、絶品アイスクリームのお店がありました。
その店の店主は肌が緑色で、ペパーミントのような色をしていました。
でもその店主がつくるアイスクリームを一口食べると
グルメリポートなんかをやっているリポーターでさえも、思わず絶句して、
しばし放心状態になるほど、
その人の的を射ているおいしさなんだそうです。
なかには、ほろほろと泣き出してしまう人や
ほぼ中毒になって肌身離さず持ち歩く人も。
そのアイスクリームを口にしたら、「生きてきてよかった……」と思えるのだそうだ。
というのが、むかしから僕がむかしから大好きな「ブギーポップ」という小説の一部なんですが、
なんでも、その店主の特殊能力が、「人の痛みに化ける」ことができるのだそうで、
だからその人がいま、どんな痛みを持っていて、その痛みを癒すためには、どんな甘さがいいかを
絶妙に配合したアイスクリームでつくるのだとか。
もともとは店をかまえずに、たった一人の人間を相手に、その人にぴったりのアイスをふるまっていたのだけれど
ややあって、店を構えることになりまして、
そのときにちょっと面白いことを言うのでした。
「一人一人を相手にする分には君は天才的だろうが、大勢の人を納得させられる味をいう方は大丈夫かな?」
そういう問いかけに、彼は心底馬鹿にしたように鼻を鳴らして、
「みんなに合わせる?そんな必要はないよ。みんなが納得できるようにするのなんて簡単さ。」
店長はこうこたえました。
「ちょっと手を抜いてやればいいんだよ。」
往々にしてある……。ベストセラーだとか、名前が出てきた劇団だとか、ある一定の人数から爆発的に人数が増えると、テイストが微妙に変わる。
なんだか、手を抜いたんじゃない?って言いたくなることが多くある。でもそれに反して、客足は伸びるのだ。
ううむ。
その店長さんはその後、一瞬の栄華を極めるも、美味しいアイスを作ることとにしか興味がないのと、結局どうしてもマンツーマンのアイスをつくることしかできなくて、没落してゆきます。
ううむ。
それで、そのアイスを食べ続けた人は、どんどん痛みに対して鈍感になり、痛みがぼやけていって、しまいには、ぼんやりした甘さのなかに生きることになって記憶が曖昧になって、今目の前にいるのが誰かも分からず、人当たりも柔らかくなり、それでも、突然痛みが押し寄せる瞬間があるので、またアイスを食べ、中毒になり、そのアイス以外食べられなくなり……あやうく死んでしまうところでしたとさ。
アイスひとつで、その人の実生活まで浸食して、生命にまでかかわるうまさを提供する。
演劇でも、なんかそんなことできんじゃないかなぁ。。。

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